2014年12月15日月曜日

医療業界におけるマイナンバーのあるべき理想の姿


マイナンバーの医療分野への活用の雲行きが怪しい件の続き。今回は医療業界におけるマイナンバーのあるべき理想の姿について。

これが実現することで、全国で膨大な行政コスト含む事務コストが削減され、国民の利便性が向上し、安全な医療の提供が担保され、患者の個人情報が保護され、偽造処方せんや向精神薬の大量仕入れが防げ、時代遅れの医療機関の淘汰を促すことができます。

なお、公式は以下。詳しく知りたい方は是非参照のこと。

「マイナンバー」社会保障・税番号制度 - 内閣官房


1.マイナンバーの番号をそのまま利用する


マイナンバーによって期待される効果3つを、公式より抜粋。

1つめは、所得や他の行政サービスの受給状況を把握しやすくなるため、負担を不当に免れることや給付を不正に受けることを防止するとともに、本当に困っている方にきめ細かな支援を行えるようになります。(公平・公正な社会の実現)
2つめは、添付書類の削減など、行政手続が簡素化され、国民の負担が軽減されます。また、行政機関が持っている自分の情報を確認したり、行政機関から様々なサービスのお知らせを受け取ったりできるようになります。(国民の利便性の向上)
3つめは、行政機関や地方公共団体などで、様々な情報の照合、転記、入力などに要している時間や労力が大幅に削減されます。複数の業務の間での連携が進み、作業の重複などの無駄が削減されるようになります。(行政の効率化)

「共通の番号を用いることで」これらを実現するわけであり、「対応した別の番号をつくる」ことによってこれを妨げるのは国策に反するのではないでしょうか?かつて年金記録が失われたのは番号を生成しまくった結果ではなかったでしょうか?

特に、マイナンバーは災害での利用も視野に入れています。マイナンバーと医療番号の紐付けが平時には可能だったとしても、災害時にはこのワンクッションが致命傷になりはしないでしょうか?


2.患者情報をすべて紐付ける


過去の受診歴、薬の服用歴、病歴、体質、アレルギー、予防接種歴、妊娠の有無、住所や保険情報まで、あらゆる情報をマイナンバーの下にぶら下げます。

こうすることで、新しい病院や薬局に行くたびに「保険証出してください」とか「問診票への記入を」とか言われることがなくなり、患者の利便性は飛躍的に向上します。薬局でも保険証を確認しませんか?の必要もなし。

医療機関側としてもそれらの手間が削減されますし、併用薬のチェックも確実簡便、救急時など患者の意識がないときでも参照可能。お薬手帳なんて本当はいらないでも書いた通り、インターネットを利用したシステムをちゃんと組めばお薬手帳は不要になります。病院をハシゴして向精神薬もらいまくりなんて簡単に防げます。

ところで予防接種歴って現行では母子手帳で管理してますよね。紛失の問題もありますが、大人になってから自分の予防接種歴覚えてる人なんてほとんどいないですよ(^^;


3.保険番号を「見えない番号」に


2と重複ですが大事なことなのであえて別で。現在では健康保険証でもって医療機関に提出されている保険情報ですが、これもマイナンバー下にぶら下げることで保険番号をなくすことが可能です。これは是非やってほしい。

国民健康保険の保険証がイケてない件でも書きましたが、その患者の持っている保険が何で(請求先はどこで)、窓口負担割合が何割かさえわかればいいわけで、マイナンバーという共通の番号があれば保険番号なんて不要です。

実際には保険組合コードみたいな番号は内部処理で必要ですが、それを「見える番号」にする必要はありません。それこそ請求する機械がわかっていればいいので「見えない番号」で。これによって「保険証から勤務先がバレる」という事態も起こらなくなります。カードには書いてませんから。

医療機関の人から見ると「この患者は3割か。どこの保険かはわからないけど」「この患者は負担金なしか。生保?何かの公費もち?」「この患者は10割か。無保険?保険適用外処方?なんだろ」みたいな。

これによって不要な個人情報が医療関係者にわたることもなくなり、医療機関の取りっぱぐれや無意味な返戻の数々もなくなります。これだけでも凄い経済効果です。

余談ですが、現行では医療関係者は知らなくてもいいことを知ってしまうことがあります。「うお、保険番号1ってことはこの人社長だ」とか「この女性ひとり親か。男連れてるけどなるほど籍を入れてないんだな」とか「こいつ生保なのにベンツ乗ってるぞ」とかです。


4.処方せんがペーパーレスに


現行紙で発行されている処方せんですが、これをペーパーレスにすることが可能です。患者はIDを病院で提示すれば、病院はそのIDに処方情報をぶら下げます。続いて薬局に行きIDを提示すれば、薬局はその処方情報を呼び出して調剤する、という形です。

紛失や偽造の心配はなく、いつどこの薬局で薬を受け取ったか、あるいは受け取っていないかを、病院が知ることができます。

さらに審査機関が行っている、病院と薬局の処方入力データを突き合わせて点検する、いわゆる「突合点検」が不要になります。「ローカルアプリを使いメール添付で送る」という旧世代の仕事術撤廃の提案でも書いた通り、そもそもバージョン違いが発生することが問題なわけで、両者が同じデータにアクセスするシステムを作ることで「同じかどうか」をチェックする必要をなくすのがスマートです。

「処方内容の違い」ならまだしも、保険番号が一桁違うとか患者氏名の漢字間違いや性別間違い、本人家族の別とかでいちいち引っ掛ける間違い探しゲームに何の意味があるでしょう?あげく病院に届く突合再審査結果連絡書(兼処方せん内容不一致連絡書)に処方した覚えのない薬が記載されていたらで書いた通り「病院間違い」は悲劇を生み出します。こんなバカなことはもうやめよう。


5.データベースの構築と全医療機関ネット環境義務付け


まだ勉強中でよくわかっていない部分もあるのですが、マイナンバーに紐付けた情報を管理保有し、各機関からの求めに応じてリアルタイムで参照・変更できるようなデータベースが構築されるんでしょうか?大前研一さんの『最強国家ニッポンの設計図』でのコモンデータベースみたいな。

マイナンバー公式によると「一元管理」ではなく「分散管理」を謳っているところから、そうしたデータベースはないのかもしれません。となると医療業界で構築する必要がありますね。上記を実現するためにはインターネットに接続されたデータベースが必須だからです。

さて、こうなると当然ながら医療機関はインターネット環境が必須となるので義務化で。義務化に反対して「通信費は国がもってくれるのか」とかワケのわからないことを言う方々がいそうですが、「この情報化時代においてインターネット環境もないような医療機関が時代のニーズに対応できるわけがない」と切って捨てるべし。高齢医師の引退→若年医師開業による新陳代謝、あるいは若年者雇用の受け皿になることが予想され、長い目で見れば好影響かと。



以上です。

なお、これが実現するとレセコン会社と審査機関が不要になります。データベースにアクセスするシステム自体がレセコンとなってそもそも入力や請求業務が不要になり、審査も全自動化が可能だからです。返戻もゼロになりますし。

審査機関を解体すれば保険者の支出を大幅に削ることができ、逼迫する医療財政に貢献すること請け合いですね。


以前Twitterにてこのようにつぶやきましたが、ひょっとして「見える番号」であるマイナンバーを「見えない番号」の医療番号(?)に変換する、というワンクッションがあるだけで、そこから先は国(というか厚労省?)もこのようにするつもりなのかもしれません。もしそうなら素晴らしいんですが…


やっぱり期待できなさそうですね…。



とはいえ本家が「一元管理ではなく分散管理」を謳っている以上、例えば税務署は税務データベースを構築するでしょうし、警察は免許交通違反等のデータベースを作るでしょうし、医療業界は医療データベースを作ることになります。

本当は一元管理の方が行政コストは安く利便性も高いんですが、セキュリティうんぬんという建前の部分と各省庁のナワバリうんぬんという本音の部分との合わせ技で、このようになるのも致し方ないかもしれません。

せめて番号は共通のものを使い、かつての悪しき轍を再び踏むことのないよう祈るばかりです。


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